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走る前から始まるレース体験。せとだレモンマラソンとゴールドウインのコミュニティづくり。

せとだレモンマラソンが大切にしているのは、当日だけで終わらないレース体験。瀬戸田という場所や大会ならではの空気感を、スタートラインの手前から共有するために、例年、全国各地でグループランを開催しています。「ゴールドウイン」の協力のもと、〈ザ・ノース・フェイス〉の店舗を拠点に行われたこの取り組みは、参加者同士のつながりを育てる試みでもあります。大会はなぜ、グループランに力を入れるのか。その狙いを探ります。

 

大会が“ハブ”になるという選択

ランニングコミュニティといえば、ブランドやショップが主催するグループランを思い浮かべる人が多いでしょう。一方で、マラソン大会そのものが主体となり、全国各地でグループランを行い、参加者同士の関係性を育てていく──そんな取り組みは、まだ多くありません。「ゴールドウイン」がメインスポンサーを務めるせとだレモンマラソンは、その数少ない事例のひとつです。

第4回大会の開催は、2026年2月22日。当日に向けて、環境負荷の低い大会運営を共に模索してきたパートナーである「ゴールドウイン」の協力のもと、2025年10月から2026年1月にかけて、東京・大阪・広島・岡山・愛媛の〈ザ・ノース・フェイス〉各店舗を拠点にグループランが開催されました。参加者は本大会に出場予定のランナーを中心に、瀬戸田という場所や大会のムードを“走って”体感しながら、本番へ向けて気持ちを高めていく機会となっています。

2025年12月17日、東京・原宿の「ザ・ノース・フェイス スフィア」を拠点に開催されたグループランの様子。

 

「まずは知ってもらうこと」から始まった。

せとだレモンマラソンは、なぜグループランを開催するのでしょうか。大会事務局として運営に携わりながら、グループランを企画・主催している矢崎智也さんに、コミュニティ形成の狙いと、その手応えについて話を聞きました。

矢崎智也/せとだレモンマラソン実行委員会メンバー。瀬戸田を焙煎拠点とする「Overview Coffee Japan」代表。自身もランニングやトレイルランニングをライフワークとしている。

 

――スポーツブランドやショップがコミュニティをつくる例は多いですが、マラソン大会がハブとなってグループランを行うのは、かなり珍しい取り組みだと思います。せとだレモンマラソンがグループランを実施する目的は?

矢崎:最初のきっかけは、「とにかく知ってもらわないと大会が始まらない」という、とてもシンプルな理由でした。第1回大会は2023年2月開催で、告知を始めたのが2022年の12月1日。誰も知らない状態からのスタートで、エントリー開始までの時間も短く、かなり切迫していたんです。

そこで〈ザ・ノース・フェイス〉さんの店舗をお借りしてグループランを行い、瀬戸田という場所や大会の雰囲気を、体験として知ってもらおうと考えました。特に東京など都市部の方にとって、瀬戸田は距離的にも心理的にも遠い場所です。だからこそ、走ることをきっかけに「面白そう」「行ってみたい」と感じてもらえる場をつくりたかったんです。

――グループランを“大会の広報手段”として活用する、という発想ですね。

矢崎:そうですね。ただ、チラシを配ったり、広告を打ったりするのとは少し違っていて。瀬戸田を「情報」ではなく、「体験」として知ってもらいたかった。走るという共通項があれば、「ちょっと面白そう」「一度行ってみたいかも」という気持ちは生まれやすいですよね。グループランの場では、コースや大会概要だけでなく、島へのアクセスや宿泊、食事の話もします。大会当日だけを切り取るのではなく、旅としてのせとだレモンマラソンを想像してもらう。そのための入口だと思っています。

 

大会主催だからこそ集まる人たち、つながる関係性。

――実際に参加しているランナーは、どのような方々なのでしょうか?

矢崎:いわゆる“ストイックなランナー”ばかりではない、というのが大きな特徴だと思います。大会主催のグループランには、すでにエントリーしている人、出るか迷っている人、瀬戸田や大会の雰囲気に興味がある人──そうした方が自然に集まってきます。
ランニングを始めて日が浅い人や、ハーフマラソンを完走できるか不安という人も少なくありません。それは、大会当日の参加者層とも重なっています。

――グループランの認知度は年々上がっているんですか?

矢崎:最初は本当に小さな規模で、正直、友人が走ってくれただけという回もありました(笑)。それでも続けていくなかで、口コミやSNSを通じて少しずつ認知が広がり、今シーズンは全国で9回開催。ありがたいことに、毎回ほぼ満員になっています。

――ここまで続けてきて、コミュニティが成熟してきたという実感はありますか?

矢崎:正直に言うと、「グループラン単体でコミュニティができています」と言い切れるほどの実感は、まだありません。ただ、いい兆しは確実にあります。たとえば参加者同士で、「現地でもまた会えたらいいですね」「この前のラン、参加してましたよね」といった会話が自然に生まれるようになりました。大会当日も、「グループラン以来ですね」「以前いっしょに走りましたよね」といったやり取りを耳にすることが増えています。

瀬戸田は町がコンパクトなので、宿泊や移動、食事の場面で偶然再会することも多い。トレイルランニングでは山の中で並走することで会話が生まれますが、瀬戸田の場合は、小さな町そのものがフィールドになっている感覚があります。そうした偶然の積み重ねが、少しずつ関係性を育てているのだと思います。

 

ゴールドウインとともに描く、これからの大会像。

――グループランは、全国の〈ザ・ノース・フェイス〉の店舗を拠点にしています。その狙いは?

矢崎:大会のスポンサーである「ゴールドウイン」や〈ザ・ノース・フェイス〉とは、「協賛」というよりも、「いっしょに大会をつくっている」という感覚があります。湘南国際マラソンなど、これまでの取り組みも参考にさせてもらいながら、大会の理念と、ブランドが大切にしている価値観が重なってきました。日常とアウトドアの境界を行き来すること。その感覚は、瀬戸田という場所ともすごく通じるものがあります。

――大会運営について、これまでとの違いやアップデートしたポイントを教えてください。

矢崎:大きな変化は2つあります。ひとつは規模。初年度500人から始まり、800人、1000人と増え、2026年は1500人を目安にしています。宿泊施設や交通など、島のキャパシティを考えたうえで、安全に運営できる上限がこのあたりだと考えています。

もうひとつは、環境への取り組みです。2025年大会から、CO2排出量の可視化とオフセットに本格的に取り組み始めました。2026年大会では、新たに「グリーンパートナー制度」を立ち上げ、企業協賛に関わるCO2の一部をオフセットに充てる仕組みを整えています。

印象的なのは、企業との関係性です。たとえば、新たにご一緒させていただくPR会社の「サニーサイドアップ」さんとは、第1回大会に社員の方が偶然参加してくれたことがきっかけでした。「すごく良かった」という社内の声から翌年も参加してくれて、今年は企業としての協力につながっています。

――最後に、グループランを続けてきた意義をどう捉えていますか?

矢崎:せとだレモンマラソンは、エントリーした瞬間から楽しみが始まる大会でありたいと思っています。大会当日だけでなく、その手前に助走の時間がある。グループランで走り、話を聞き、少しずつ瀬戸田との距離が縮まっていく。その積み重ねが、当日の体験をより深いものにしてくれる。それが、この大会が目指しているコミュニティのかたちです。

 

Photo_Kanta Nakamura
Text_Issey Enomoto

haikei