people

走ることが、海の再生につながる。尾道市環境政策課に聞く、ブルーカーボンという循環。

走ることが、海の再生につながる。そう聞くと、少し意外に思われるかもしれません。

せとだレモンマラソンでは、大会にともなって発生する二酸化炭素の一部を、尾道の海でオフセットする取り組みを行っています。干潟や藻場の再生によって吸収された二酸化炭素(ブルーカーボン)はクレジット化され、その収益は海の保全活動に活用されています。こうした循環は、地域の海を少しずつ豊かにしていくことにもつながっています。

今回は、この循環を支えている尾道市環境政策課に話を伺いました。

 

海が二酸化炭素を吸収する仕組み

尾道市が進めているブルーカーボンの取り組みは、市内にある4つの人工干潟で行われています。ここでは、海草であるアマモの育成や、アマモが育つ場所である藻場や干潟の環境を整える活動が続けられています。

こうした藻場や干潟では、アマモが光合成によって二酸化炭素を取り込むだけでなく、泥の中に生きる微生物が炭素を固定する働きもあります。二酸化炭素吸収量は、アマモと、藻場や干潟を対象に、専門の調査会社によって毎年計測されています。

年間の二酸化炭素吸収量は平均でおよそ90トン前後です。初年度は約130トン、翌年は80トン台、今年度は90トン台と、海水温や生育状況など自然条件によって変動がありますが、継続的に二酸化炭素が吸収されていることが確認されています。

 

多くの人が関わる、海を育てる循環

こうして計測された二酸化炭素吸収量は、ブルーカーボンのクレジット「Jブルークレジット®」になります。クレジットの販売による収益は、手数料などを除いた大部分が尾道市に戻り、その資金は藻場や干潟の保全活動や調査、環境学習の取り組みに充てられています。干潟を耕してアサリが育ちやすい環境を整える作業や、アマモの種を採取して育て、再び海へ戻す活動も、こうした循環の中で続けられています。
また、これらの活動には漁業者や研究者、地域の子どもたち、企業など、さまざまな立場の人が関わっています。種まきや観察のイベントでは、水中ドローンを使って海の中の様子を確認することもあり、参加した子どもたちが海の変化を自分の目で確かめる機会にもなっています。
尾道市環境政策課の坂本里美さんは、「多くの方が協力的に関わってくださっていますし、イベントに参加した子どもたちも、とても楽しそうにしているのが印象的です」と話します。

 

アサリの回復と、アマモの変化

海の環境にも少しずつ変化が見え始めています。かつて大きく減っていたアサリは、収穫量が一時はほとんどなくなっていたものの、最近では年間3〜4トンほどまで回復の兆しが見られるようになりました。

また、冬になると減少しやすいアマモも、地元の漁業者からは「以前に比べて残る量が増えている気がする」という声が上がっており、活動の手応えを感じることもあるといいます。

藻場や干潟の環境は、海水温や生きものの影響など、さまざまな自然条件によって変化します。そのため、面積が増える年もあれば減る年もあり、すぐに成果が見える取り組みではありません。それでも、再生した藻場で育った魚が尾道のほかの海域へと広がっていく可能性も指摘されており、長い時間をかけて海の環境が変わっていくことが期待されています。

 

走ることが、海の循環の一部になる

せとだレモンマラソンでは、こうした取り組みによってクレジット化された「Jブルークレジット®」を購入することで、大会にともなって発生する二酸化炭素の一部をオフセットしています。排出を減らす努力を前提に、避けることのできない分を地域の海の再生に役立てる。その循環は、遠くのどこかではなく、走る人たちのすぐそばにある海へとつながっています。

アマモが育ち、魚が増え、海が少しずつ豊かになっていく。その変化には長い時間がかかりますが、走ることが、その積み重ねの一部になっています。走ることが、海の再生につながる。その言葉は、比喩ではなく、いま尾道の海で続いている取り組みの姿そのものです。

haikei